Ipsa scientia potestas est.
私の趣味のひとつに、素粒子物理があります。 「自分がいるこの世界はどのように成り立っているのか」というテーマには、程度の差こそあれ誰もが興味を持ち、その答 (もしあるならば) を知りたいと思うのではないでしょうか。
それを調べる方法のひとつは、対象をより細かい単位に分解していくことです。 そのようにして、人間は分子, 原子, 陽子/中性子, 電子 … といった具合に、物質をどんどん「切り刻んで」、より小さな粒子を発見してきました。 このあたりの領域になると、粒子の大きさは 10-10m (1億分の1センチメートル) よりも小さくなり、肉眼はもとより、顕微鏡でも捕らえきれないほどに小さくなってしまいます。 そうした粒子の性質は「目で見て」「直感的」に理解できるようなものではなく、波のように拡散したり、何もないところから突然現れたりと、日常的な間隔からは考えられないような振る舞いを呈するようになります。 この奇妙な振る舞いを説明すべく物理学者は観測された現象を矛盾なく説明できるようなモデル (理論) を打ち建てようとしているわけです。
ところが、例え良さそうなモデルができたとしても、それを直接実験で確かめるのは容易なことではありません。 なにせ相手は目にも見えないほど小さい上に、ものによっては 10-8 (1億分の1) 秒程度で消滅してしまうので、「それが確かにここにあった」ことを証明することすら非常に困難。 そのため、モデルの正しさ (精度) を検証・向上させていくには、小さな状況証拠 (泡ができたとか、暗闇の中で水が光ったとか) を積み重ね、それらが互いに矛盾しないような解釈の筋道を見つけていくしかないわけです。
ここまでくると、すでに確立された理論の後追いをするだけでも相当にアタマを捻らなければなりませんが、だからこそ、それを理解することが「趣味」として成立するのだと言えるでしょう。 (パズルみたいなものですね。) この趣味の優れた点は、「(殆ど) お金が掛からない」ということですが、これは裏を返せば「お金を掛けてもどうにもならない」ということ。 どうしても理解できないときは、ひたすら本を読み返したり、別な本の内容とつき合わせたりするのですが、それでもダメなときはダメ。 そんなときは、自分の頭の悪さに落ち込んだりもするわけですが、それもまた醍醐味でしょうか。
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