ゲームを通じて英語に触れる
新型コロナウイルス感染症の蔓延への対応として日本で最初の緊急事態宣言が発令されてから一年余り。 この間、程度の変化はあれど、基本的には三密の発生を避けるべく、公的・私的を問わず人が寄り集まることは禁忌とされてきました。 これにより、友人らと遊び歩くことができなくなった人々のストレスはすさまじいものがあります。 我々のような大人については「社会人として理性と責任が求められる立場なのだから我慢してみせろよと」と思うところですが、友人らと共に学び、語り、競い合うことで社会性を身につけていく年代の子供たちは大変に気の毒であり、また、社会制度の変更を含めた継続的な公的ケアが必要になるだろうと考えています。
その一方で、私個人の生活の変化について言うならば、未だ限定的ではあるものの、在宅勤務の導入が進み、人と会うために家から出ていく機会が減った現在の状況は非常に快適であるというのが正直なところです。 趣味といえばプログラミング, 数学, 物理学, 読書に料理と、どれも一人でできるものばかりという引きこもり気質の影響も大きいでしょう。 それら孤独に楽しむ趣味の中でも、とりわけゲームに費やす時間は大きく増加。 ゲームのコンテンツそのものを楽しんでいることはもちろんですが、その副次的な作用として、独立して以来めっきりと使用頻度が減っていた英語の読み書きをする機会が増えるという意外な効果が現れました。
というわけで今回は、本エントリを通じてこれらのゲームに興味を持ってプレイを始め、それによって外出制限下でも楽しく時間をつぶすことできる人が増えることを願って、このコロナ禍の期間であるかないかに関わらず私がゲームの中で出会い感銘を受けた英語表現について紹介していきます。
Resident Evil 4 (バイオハザード4)
かつて、日本製のゲーム (に限らないかもしれませんが) の中で使われる英文には、中学・高校程度の英語の知識でも「それはちょっと......」と言いたくなるようなでたらめな文法のものが多く見られました。
"All your base are belong to us." は、2001年から2002年にかけてインターネットで流行した言葉の一つであり、インターネット上で起こった現象 (ミーム) の中で最も有名なものの一つである。
“All your base are belong to us.” という英文は、英語を母語とする人にとっては片言であり、シリアスな画面との対比のおかしさ、企業がこんな間違った英語を校閲せずに載せたものを売ってしまうという意外性、あるいはその文章自体のインパクトによって一気に流行することになった。
しかし、現在では多くのゲームが英語への翻訳 (ローカライズ) ないしその監修にネイティブ・スピーカが関わるケースが多いようで、少なくとも私の観察する範囲では「変な英語」を目にする機会はほぼなくなっています。 それどころか、日本語の文章と対比することで感動的な冴えが伺えるような絶妙な翻訳も少なくありません。 例えば、『バイオハザード4』において、主人公のレオンが、突然現れた謎の女に背後から銃を突きつけられるシーン:
Sorry, but following a lady's lead just isn't my style.
謎の女: 手を上げて。(Put your hands where I can see them.)
レオン: 女性には手を上げない主義なんだ。(Sorry but following a lady's lead just isn't my style.)
謎の女の台詞 (英語) は直訳すれば「手を私の見えるところに置け」であり、これに対するレオンの返しも「女性にリードされるのは俺のスタイルじゃない」となります。 しかしこの例では、同じ意味の英文 "Raise your hands" の訳を「暴力を振るう」の日本語における慣用表現である「手を上げる」に重ねることで、緊迫した場面でも軽口を叩いてみせるレオンの精神的な強靭さとユーモアのセンスを表現しているわけです。 この巧さといったら! 訳者の「翻訳ってのはこうやるんだぜ」という声が聞こえてきそうです! (興奮)
敵組織の長であるオズムンド・サドラー (ネタバレ: こいつがラスボス) と遭遇する場面でレオンが言い放つ台詞:
Faith and money will lead you nowhere, Saddler.
信仰か金かどっちかにしたらどうだ。
(Faith and money will lead you nowhere, Saddler.)
直訳すれば「信仰と金はおまえを導いてはくれないぞ」で、もう少し意訳すれば「いくら信者と金を集めても (俺が潰すから) 無駄だ」となりますが、いずれにせよ日本語版の字幕とは若干ニュアンスが異なります。 しかし、会話の流れを考えると、圧倒的に不利な状況にあっても挑発的な姿勢を崩さないレオンのタフさの描写としてこの上なく秀逸なものだと言えるでしょう。
さらに、この前後には以下のような遣り取りがあります:
レオン: 誰だ? (Who are you?)
サドラー: 私はオズムンド・サドラー (If you must know, My name is Osmund Saddler, -)
サドラー: どうだ? この革新的布教は... (Don't you think this a revolutionary way to promulgate one's faith?)
レオン: まるでエイリアンの侵略だな。(Sounds more like an alien's invasion if you ask me.)
下線で示した部分はいずれも、日本語字幕に対応する箇所のないフレーズですが、「(名乗る必要はないが) 君がどうしても知りたいなら教えよう」「俺に訊いてるなら (俺に言わせれば)」と互いへの敵意が「言葉のトゲ」となって表れていてるのが面白いですね。
また別の場面では、レオンたちのための治療薬を取りに危険な城内へに戻ろうとする人物が「どうしてそこまでするのか」と問いかけられて次のように答えます:
It makes me feel better. Let's just leave it at that.
良心の呵責さ。
(It makes me feels better. Let's just leave it at that.)
短い日本語の1文に対し、英訳は2文「その方が気分がいいからさ」「その話はここまでにしよう」から構成されており、特に後者は日常会話でも使いたくなる場面が多そうな表現。 よく「日本語の曖昧な、結論をぼかすような表現を英語にするのは難しい」と言われますが、やはり人間が話す言語である以上、そうした表現は絶対に編み出されているもので、それを難しいと感じるのは、単に自身がその言語に通じていないだけ、ということを感じる例でもあります。
Dark Souls (ダークソウル)
「死にゲー」として有名な『ダークソウル』シリーズは現在進行形でハマッているゲームのひとつ。 日本製のゲームでありながら、そのハードな手応えと、中世ヨーロッパの建築・調度のリアルな再現などから、海外でも人気の高い作品となっています。
このゲーム登場するNPCたちはそのほとんどが主人公に対してあまり友好的でないため、その例外となるキャラクタが見せる主人公への気遣いの言葉は印象に残るでしょう。
...死ぬんじゃねぇぜ。あんたの亡者なんて、見たくもねえ...
(Don't get yourself killed, neither of us wants to see you go Hollow.)
よし、いってこい。馬鹿弟子が、亡者になんかなるんじゃないぞ。かけた時間が無駄になる。
(Now, go. Whatever you do, do not crack and go Hollow. Lest my time spent on you be wasted.)
特に、二番目の例にある lest という接続詞を使った「~をしないように」「~するといけないので」という表現はいろいろな場面で使えそうな表現。 恥ずかしながら、私はこの単語を知らなかったので、この台詞に出会ったことで表現の幅が少し広がりました。
このゲームを楽しむ上で英語が有用なのは、ゲーム内の記述や会話を読み解くときだけではありません。 「ダークソウル」はフロム・ソフトウェア作品の例にもれず「重厚な世界設定と、それに対して極端なほどに乏しいストーリーテリング」という特徴を備えているため、私を含めたフロム脳患者たちは、日本語の情報だけでは満足できず、海外サイトを訪れるようになります。 英語版の攻略 Wiki (私の知る限りでも3つ存在している) の情報量は圧倒的で、ゲームデータはもとより豆知識の記述だけでも、「誰だよこれ書いたの」と言いたくなるほどの広さと深さがあります:
Trivia: The Moonlight Butterfly's name could be a reference to the Moonlight Butterfly from Turn A Gundam.
トリビア: 月光蝶の名前はおそらくターンエーガンダムが元ネタである。
Inspiration for the Washing Pole may have came from the Chinese Song-era weapon, "Zhan Ma Dao," (literally translating to "Chop-Horse-Blade") which in turn became popular in Japanese stories. However, while the Zhan Ma Dao (being over one and a half meters long in total) features an significantly long blade, its handle is much longer than the Washing Pole, thus making it much more viable and wieldy.
「物干し竿」は、宋代中国の武器で、日本の創作で人気の高い「斬馬刀」に触発されたものだろう。 しかしながら、斬馬刀 (全長1.5メートルを超える) は途方もなく長い刃を備え、それを取りまわすための柄も物干し竿のそれより長い。
More than likely, the sword's name and shape is a reference to the sword of the famous Japanese Swordsman Sasaki Kojirō, who became famous for his rivalry against Miyamoto Musashi. Sasaki Kojirō used a no-dachi (Samurai equivalent of a Bastard Sword) that had been specifically rebalanced so that it could be wielded in one hand, and the traditionally long hilt was shortened to that of a normal katana. The sword was named, "The Drying Pole," (物干し竿, monohoshizao) due to its long length yet incredibly light weight.
さらに、この刀の名前と形状は、宮本武蔵のライバルとして名高い佐々木小次郎の愛刀を元ネタとしていると考えられる。 佐々木小次郎は片手で振るえるよう特別に調整され、伝統的な長い柄を普通の刀のそれのように短く詰めた野太刀 (侍が使うバスタードソードのような刀) を使った。 この刀は、その長さに比して信じ難いほど軽いことから「物干し竿」と称された。
そしてまた、博識なファンによって綴られた「考察」を読むのもこのゲームの醍醐味。 以下のページなどは、オンライン辞書 と Google 翻訳 と首っ引きになりながら夢中で読み耽りました:
And Filianore specifically is a good match for Persephone, Queen of the Underworld.
そしてフィリアノールはとりわけ、冥界の女王ペルセポネとの共通点が多い。
Persephone was the goddess of Spring, who spent half the year in the Underworld and half in the world above. While there, the world was blessed with new growth and harvest, and her return underground was marked by the death of plants and halting of growth. In some versions of the myth, Persephone was a prisoner in the Underworld because she had tasted the blood of Hades, and so could never fully return to Olympus.
ペルセポネは、一年の半分を冥界で、残りの半分を地上で過ごす春の女神である。 地上の世界は、彼女の訪れと共に芽吹きと豊穣で祝福され、そして彼女の冥界への帰還と共に枯死と停滞に包まれる。 神話のいくつかのバージョンでは、ペルセポネはハデスの血を飲んだことにより冥界の捕らわれ人となり、オリュンポスへの完全な帰郷が叶わなくなったとされている。
Filianore is also associated with growth and plant life - her crest is an ornament of young grass, her Spears received the young grass bloom, and the wall of the Ringed City is paved with budding green blossoms. Gwyn’s statue, too, offers the pygmies the Chloranty Ring, an ancient ring named for its decorative green blossom.
フィリアノールもまた、成長と植物の命に関連付けられている。 彼女の紋章は若草のオーナメントであり、彼女の「槍」たちは若草の花を受け取る。 そして輪の都の城壁は芽吹いた緑の花によって覆いつくされている。 グウィンの彫像もまた、足元の小人に緑花の指輪 - その緑の花の装飾からそう名付けられた古の指輪 - を下賜する場面を描いている。
まこと、世の中には、世界には、すごい人たちがいるものです。
The Elder Scrolls V: Skyrim (スカイリム)
これ以降で紹介するのは海外 (主にアメリカ) 製のゲーム。 まずは、『スカイリム (The Elder Scrolls V: Skyrim)』 を取り上げようと思うのですが、その前に私がどれだけこのゲームにハマったかを示すページをお見せしましょう:
http://www.flint.jp/~narita/misc/skyrim/alchemy/?lang=en
ゲーム中で行うことのできる「錬金術」のレシピを手早く検索するためのデータベース。 しかも無駄に日本語/英語の切り替えができるという。 私は一体何やってんですかね......。
しかし、このページのアクセス数はかなりのもので、当サイト内では断トツの1位を獲得しています。 ここから、リンクをたどってトップページ, 業務内容紹介等を閲覧する訪問者も少なからずいるようなので、多少の宣伝効果はあると考えていいでしょう。......あるはず。......あると思いたい。
このゲームで最も有名な台詞はなんと、モブキャラである衛兵のものだったりします。 本作をプレイしたことがない人でも、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか:
昔はお前みたいな冒険者だった。膝に矢を受けてしまって...
(I used to be an adventurer like you, but then I took an arrow in the knee.)
この台詞は先に紹介した "All your bese are blong to us." と同じようにインターネットミームと化し、世界中でネタにされています。 私も昔は勤め人だったが、膝に矢を受けてしまってな......。
また、「声に出して読みたい人名」第一位 (当社調べ) に輝くモーリス・ジョンドレレ (愛称: モジョレ) 氏の名台詞などは、原文の英語・日本語訳ともにシビれる格好良さ:
旅がうまくいくよう願っている。キナレスの風に乗って甘い香りだけが届くように。
(Good luck on your travels. May Kynareth's wind carry only the sweetest scents.)
しかしながら、日本における『スカイリム』は、こうした名台詞以上に「誤訳・珍訳が多い」ことで有名なゲーム。 例えば、暗殺者ギルドからの刺客として差し向けられたに主人公と向かい合った皇帝は
余と私には運命の日がある。
(You and I have a date with destiny.)
という言葉を発します。 船室内に主人公と皇帝が二人きりというシチュエーションから読み流してしまいそうになりますが、「余」と「私」はどちらも一人称。 「余と私」をそのまま英訳したならば "I and I"......ナニイテンダ!?
この他にも重大なものから軽微なものまで、山のような誤訳が指摘されています。
https://w.atwiki.jp/tes5/pages/125.html
「アワビ」「レオナラの家の鍵」「海賊船」が人名だと誰が分かるでしょう。 ちなみに「最初の仲間」という名前の人物は敵。 ただ、日本ではこうした誤訳を含めてネタとして面白がる文化が定着していて、本気で不満を持っているユーザはそれほど多くないように観察されます。
これは完全に余談ですが、私は以前から、英語には他のヨーロッパの言語に近いものが見られない単語が大量にあることが気になっていました。 例えば、私たち日本人が使う「パン」は英語ではなくポルトガル語だというのはよく知られているところですが、その祖であるラテン語およびそこから派生する諸言語においても "panis", "panem", "pane", "pain" など、「パン」に近い名前で呼ばれています。 ところが、我々もよく知っている通り、英語でこれを表す言葉は "bread" で、これに似た言葉は近縁とされる言語には見当たりません。 英語の単語には、近縁言語と共通のものと、英語に独特のものがあるように見受けられます:
対象 | 共通性がない語 | 共通性がある語 |
---|---|---|
子供 | child | infant, kid |
空 (天井) | sky | ciel, cieling, celestial |
階段 | stair, stairway | escalation, escalator |
窓 | window | fenestra, fenestration |
こうした変異の由来についてことあるごとに調べていたものの、何も分からないまま過ごすこと10年以上。 そんな折、中世の北欧をモチーフとするこの『スカイリム』のところどころに英語に混じって現れる、グリーンランド語やスウェーデン語の祖となった古ノルド語に由来する名詞について調べていく中で、突如としてその答えに行き当たりました:
言語学を専攻した人には常識なのかもしれませんが、私のような素人にとってはたどり着くことが難しかった知識。 少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。
Ghost of Tsushima (ゴースト・オブ・ツシマ)
昨年7月にリリースされた "Ghost of Tsushima" は、国内外で絶賛の嵐を巻き起こしたゲームで、記憶に新しい方も多いはず。 私はこれまで、リリースされたばかりのゲームをすることはあまりなかったのですが、ある友人の執拗なプッシュによって半ば強制的にこのゲームのプレイを開始しました。
アクションゲームあるいはオープンワールドとして若干大味で物足りない部分はあるものの、それを補って余りある鮮烈な物語と、実写と見紛うほど緻密に作り込まれた人物および景観に引き込まれてしまったのはここだけの話。 さらに、「物足りなかった」ゲーム性の部分も追加コンテンツとして (無料で!) 配信された2週目モードおよびオンラインマルチプレイモードであっさり補完されてしまいました。 まぁ、ハマッたとは言っても、「気が付いたらトロコンしてた」程度ですが。
大きな話題になっただけはあって、ゲーム内の人物の会話や台詞についての日英比較は上にあげたように本職の方の手によってなされているので、私からはUI部分の翻訳で面白いと感じた2点を紹介するに留めます:
一つ目は温泉に浸かったときに出現する
思うこと... (REFRECT ON...)
私の乏しい英語力では "reflect" と聞いた瞬間に「反射する」という意味しか出てこなかったところですが、
真剣に [じっくり] 考える、内省する、自分と向かい合う 【参考】reflect on
という意味もあるとのこと。 技術文書ではまずお目にかかることのない表現なので、良い学習機会となりました。
二つ目は、戦闘で瀕死状態になった敵に近づいた際に出るコマンド
とどめを刺す (End Suffering)
日本語の「とどめを刺す」というのは、後ろから襲われたりすることのないよう相手を確実に死んだ状態にする、というニュアンスがある一方、英語の "End Suffering (苦しみを終わらせる)" はより慈悲にもとづく行動であることに重点を置いているように思えます。 こうした機微を不自然さなく訳してみせるところに、訳者の技量を感じますね。
ゲームは、自分でするだけでなく、他人がやっているのを眺めるのもまた楽しいもの。 私がよく見ているのは、このゲームの実況プレイをしている Marz という YouTuber の動画。 彼女はプレイそのものが上手いというわけでは決してないものの、何度失敗しても諦めることなく、自分のプレイを顧みては改善し、時にはオーディエンスの助言を受けて挑戦を継続して難関を突破していきます。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLU5c5YzX2iBanCpWgBnzqz7elX0cUIwIo
そしてまた、プレイ中の彼女のトークも愉快。 右に示した画像にもありますが、松の木を見て
でっかいボンサイの木。ボンサイって育つとこんな立派な木になるの?
(Its's almost a giant bonsai tree. Bonsai trees can grow into a full tree right?)
と、私のような日本人には「なんで盆栽知ってるのさ」と突っ込まずにはいられないような感想を述べたと思いきや、大根を見つけて、
でかいニンジン? クソでっかいニンジン? ニンジンヤバい!
(Is that a giant carrot? Is that a giant ass fucking carrot? That's a goddamn carrot!)
と騒いでみたり。 なんで盆栽知ってて大根知らないんだよ! っていうか言葉遣い悪いな!
彼女は字幕が伏字になるような「悪い言葉」を連発するのですが、それはそれでまた勉強になります。
- BS (ビーエス)
- "bullshit" の略。
- butthole (バトホー)
- "asshole" に同じ。 "ass" が "butt(ock)" に置き換えられているから多少柔らかい表現......なのか?
- mofo (モーフォ)
- "motherfucker" の略。 「略さない形に比べて多少激烈さが少ない」そうな。
......この辺にしておきましょうか。
彼女は他にも色々なゲームの実況をしており、その中には前述の『ダークソウル』シリーズもある (むしろそちらで有名) のですが、機敏な動きをする敵に一方的に殴られている際に、
Stop existing!
と絶叫したことがあり、聞いていた私は不覚にも大笑い。 同種の表現として "Be gone!" や "Go away!" というのはよく耳にしますが、「存在するのを止めろ!」というのは私にとって斬新な表現でした。 罵倒表現のレパートリーに加えておこう。
American McGee's ALICE (アリス・イン・ナイトメア)
最後に紹介するのは、時代をずっと遡って2000年発売の『アリス イン ナイトメア (American McGee's ALICE)』。 その邦題から察せられる通り、その内に数多く盛り込まれた奔放な言葉遊び故に翻訳者泣かせとして有名な『不思議の国のアリス』をモチーフとしたゲームです。 そんな背景があるためか、当時としては抜群に上質な翻訳でローカライズされた作品で、私がゲーム英語にのめり込むきっかけともなっています。
なぞなぞだ。クローケーの木槌が棍棒になるのはどんなとき? 答え、君が殴ったとき。
(Here's a riddle. When is a croquet mallet like a billy club? I'll tell you: whenever you want it to be.)
実は日本語訳の後半は公式では「君が相手を打ちのめしたとき」であり、上記はとあるファンサイト (今はもうない) に掲載されていたものなのですが、より簡潔かつ鋭い表現だと思えるため、こちらを紹介しました。 原文の "whenever you want it to be" (そうあって欲しいときはいつでも) というのもなかなかに洒落た言い回しで大好きなのですが、直訳してしまうとどうしても野暮ったくなりがちです。 そのファンサイトではもうひとつ、公式よりも秀逸な訳を見ることができました:
凍えるような寒さは切り傷を負わせるよりもはるかに敵の戦闘力を奪う。 だが、春は必ずやってくるということを忘れるな。
(Withering cold incapacitates an enemy more completely than deep wounds, but Winter does not last forever.)
公式訳では後半が「しかし冬は永遠には続かないがね」となっており、これはこれで十分なクオリティなのですが、こちらの訳の方が「アイスワンド (ice wand)」という武器によって敵を凍結させておける時間に限りがあるという不吉な事実を、春の訪れという一般的には好ましいイメージで語られる現象を以て説明するという倒錯があり、ゲーム世界の狂気とマッチしt... (以下255文字分省略)
「お待たせしました。(I've kept you waiting.)」は日常でよく使われる表現ですが、その主語と目的語を入れ替えると、途端に剣呑なメッセージになります。
遅かったじゃないか、アリス。 時間はちゃんと守るべきだと聞いたことはないか?
(You've kept me waiting, Alice. Have you ever heard that punctuality's a virtue?)
後段を直訳するならば「時間厳守は美徳だと聞いたことはないか?」となるでしょうか。 そしてまた、この嫌味に対する主人公アリスの返しも秀逸で:
あなた、私の歯医者とすごくよく似てるわ。
(You and my dentist's assistant have much in common.)
「似ている」という単純な感想に "have much in common (共通点が多い)" という言い回しで皮肉の含みを持たせた原文も、直訳すれば「歯医者の助手」となるところを、テンポが悪くなるのを嫌い思い切って「歯医者」とした翻訳も、どちらも「巧い」の一言に尽きます。 そして同時に、翻訳というのは字句の意味を逐次置き換えてくだけの作業ではないということを改めて感じさせる一文ではないでしょうか。
大変に個人的な話で恐縮ですが、困難な状況にあるときに思い返して自分自身を奮い立たせるフレーズを二つ紹介して、本エントリの結びとします:
怖いものや不愉快なものには立ち向かえ。 失敬なことを言う奴は懲らしめてやるがいい。
(Confront what frightens or offends you; reckless or insulting talk should never go unchallenged.)
まっすぐ正面を見ろ。 横目で見たって構わないがとにかく常に正しい方向を見るんだ。
(Look straight ahead. Or askance – whichever way you choose, you must always look in the right direction.)
"go unchallenged" は「お咎めなしで済む」で、この前に "should never" が付いて「(そんなことが) 罷り通るべきではない」というような意味に。 現実では、怖いもの、不愉快なものすべてに立ち向かうことなどできはしませんが、それでも勇気を振り絞って戦うべきときがあるもの。 問題に目を背けて逃げ出したくなったとき、襟首を掴んで回れ右をさせてくれる、そんな言葉です。
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