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A Good Example of Bad Interface Design

ノートだけで仕事をするのは少々きついので、デスクトップPCを一台、新規に購入しました。 OSは Windows 7 (64ビット版) を搭載。 さっそく環境設定や各種ソフトウェアのインストールを行います。

これまで XP を使い続けていたのは、Vista 以降、Windows (に限らず Microsoft 製品全般) のユーザインターフェイスのレベルが無残なほどに低下していたからに他なりません。 (参考: Windows Vista) 7 になってもインターフェイスの改良の気配は見られず、各種の挙動にイライラしながら設定作業を行っているのが現状です。 各種プログラムの中でも特にひどいのが、Windows Live Messenger 2011." 「わざと使いづらいように作っているのか?」と疑念を抱かずにはいられないレベルです。

というわけで今回は、UI設計の反面教師とすべく、この最悪のインターフェイスについて詳しく解説をしていきたいと思います。

サインインの前から

ログインウィンドウ

使い勝手の悪さは、起動の瞬間、サインイン前から既に発生しています。 右に示したのがログイン用ウィンドウ (スケールは1/2) なのですが、これが毎回デスクトップの中央に開かれます。 前回閉じたときの位置を記憶したりはしません。 毎回、起動のたびに、このデカいのがデスクトップの中央を占拠します。 しかもサイズの変更は不可能。

また、「IDとパスワードを保存する(B)」というチェックボックスはありますが、IDだけを記憶させることはできません。 パスワードと一緒に保存しない限り、起動時のID入力欄は常に空。 従って、パスワードを記録させたくない人は、毎回、ID (メールアドレス) を打ち込まなければならないわけです。 パスワードを記憶させるという運用は、利用者がPCをロックせずに席を離れた場合に、周囲の人間がその人のアカウントでサインインできてしまうため、セキュリティ上好ましくありません。 ところがどうやら、マイクロソフトはIDだけを記録させる道を閉ざし、ユーザをそうした問題のある運用へと誘導したいようです。 一体何を考えているのでしょうか?

まだサインインすらしていないわけですが、問題はこれで終わりではありません。 面倒くさいと思いつつも、セキュリティのことを考えてIDを打ち込んだ利用者は、Tab キーを押してパスワードの入力に移ろうとするわけですが、キャレットがパスワードフィールドに移動するまでに (私のPCでは) 2~7秒のディレイがあります。 この間にメッセンジャはどこか (おそらくMSNのサーバ) と通信している様子。 同一のIDを使用すると二回目以降はディレイは見られませんが、ドメイン部分を変更するとまたディレイが発生します。 このことから、サインイン前にユーザIDのドメイン情報をサーバへ送信して何らかの処理をしていると思われるわけですが、何をしているのかは謎。 どのみち、アカウント認証時にIDはサーバに送信されるわけで、「通信先のリダイレクト」あるいは「統計情報の収拾」などの作業はそこで行うことができますし、その方が確実だと思われるのですが...。 少なくとも、利用者のID/パスワード入力操作の流れを妨げてまでやる価値のあることではないでしょう。

ソーシャルフィードを読み込んでいます

さて、ID/パスワードを入力して [サインイン(S)] ボタンを押すと、右図のように「起動しています...」という表示に切り替わります。 しかし、これが長い。 自分や登録している他のユーザの情報を読み込んでいるのかと思いきや、続いて現れる「知り合いの情報を読み込んでいます」の文字。 ちょっと、今まで一体何やってたんですか?

この「起動」ステップでは他にも「ソーシャルフィードを読み込んでいます」という文字も出てきます。 この「ソーシャルフィード」については、後で詳しく述べますが、要するにSNSのような機能。 従来の Messenger の機能だけを使おうとするユーザにとっては余計な情報でしかありません。 そんなものユーザから要求されたときに読み込めばいいでしょう。 いいからさっさとメインウィンドウを開いてくださいよ。

ちなみに、パスワードの入力ミスなどで認証に失敗した場合にも、この「起動しています...」の表示は出てきます。 さらには、「ソーシャルフィードを読み込んでいます」の表示まで出てきます。 認証失敗しているのにフィード読み込むって、プライバシ的に問題があるような気がするんですが。 そして、しばらく待たされた後、ID/パスワード入力に戻ります。

サインイン前のインターフェイスによくこれだけ駄目な実装を作りこめるものだと、ある意味で感心してしまいますね。 ひょっとして、これも一種の才能なのかもしれません。

要らないものがいっぱい

ワイド表示

MSN Messenger 2011 には、2009 までにはなかった機能がいろいろと追加されています。 しかし、その殆どはIM (Instant Messenger) としてこのアプリケーションを利用していた立場からすると、余計なものばかり。 その代表格は、Twitter や Facebook, Google+ などのSNSを意識して作られたと思しき、SNSフィード (右図) でしょう。

そもそも、要るとか要らない以前の問題として、ウィンドウがデカい。 図は幅をできるだけ縮めたものですが、それでも910ピクセルあります。 IM を使っている人の多くはそのウィンドウを、作業の邪魔にならないように、デスクトップの右下にくるように配置していると思いますが、このサイズでは存在感がありすぎて、いかにも邪魔です。 この余計な部分を非表示にしたいのだが、どうすればよいのか? これを見つけるまでに、実は結構な時間がかかりました。 まずは、「オプション」を眺めてみましたが、それらしい項目は見当たりません。 では、表示エリアの境界あたりに「折りたたみ」ボタン (よくあるインターフェイスですよね) でも付いてないかと探しますが、それもなし。 実はウィンドウの右上隅にあるアイコンがそれで、ポイントすると「コンパクト表示に切り替える」というツールチップが出現します。 これをクリックすることで、ようやっと以前の大きさのウィンドウに戻すことができました。 やれやれ。

そしてまた、ここに表示される情報というのが、登録しているユーザ、あるいは自分のメッセージ欄の更新履歴という、(少なくとも私にとっては) きわめてどうでもいいもの。 おそらくは Twitter を意識してのことでしょうが、このメッセージ欄は Twitter の「つぶやき」とは性質が異なります。 とりあえず、これで「会話」をしているユーザというのはいないのではないでしょうか。 というか、それがやりたければ Twitter のアカウント取りますし...。

他にも「グループ」というよく分からない機能が追加されています。 2009までは、登録したユーザを「カテゴリ」という概念で「友達」「会社」「家族」などと区分して管理していました。 では、この「カテゴリ」と、新しく追加された「グループ」はどう違うのでしょう。 説明を読むと、「グループ会話」というのを行うための機能だとか。 しかし、そもそもそんなものを作らなくても、ユーザを複数選べば多人数で会話をすることができたはず。 毎回ユーザを選ぶ手間を省くためのショートカットかとも思ったのですが、どうもそうではないようです。 グループを作ると、そのグループのウェブサイトとやらが作成されます。 つまり、クライアントではなく、サーバ側で管理される情報だということ。 そこにメンバを追加しようとすると、アドレス帳から選択するだけでなく、メールアドレスを一般形式で入力できることから、現在「知り合い」として登録しているユーザの枠組みを超えた会話機能のようです。 なぜ、わざわざ設定した枠組みの範囲外で会話・通信をさせようとするのでしょう。 まったく、理解に苦しみます。

いままでできていたことが

不要なものがゴテゴテと付け足されただけならまだしも、以前のバージョンではできたのに、このバージョンではできなくなっていることが数多くあります。

まずは名前。 以前は、MSN に登録したプロフィールとは別に、ニックネームを表示することができました。 プロフィールは、「姓」と「名」に分けて名前を登録させられるので、私の場合は "Sho" / "NARITA" となりますが、実際に他のユーザに対して見せる名前は "narita@home" のような感じにしていました。 しかし、このバージョンではそれができません。 表示欄には常に MSN のプロフィールと同じものが表示されます。 どうしても名前を変えたければ、プロフィールを変更せねばならず、しかも「姓」「名」のいずれも空白にすることは許されないので、表示名は必ずその区切りの空白をひとつ含んで "narita -" のような、文字通り間の抜けたものに。 さらに悪いことに、名前の変更をメッセンジャのウィンドウ上で行うことができなくなってしまいました。 ユーザが表示名を変更しようとするたびに、MSNのプロフィールページがウェブブラウザで開かれます。 いずれにせよ、従来通りの使い方をしようとするユーザは、プロフィールに正確な情報を入れなくなります。 これはとりもなおさず、マイクロソフトがユーザの正確な情報を得る機会を自ら減らしていることに他なりません。 自分の首を絞めるのが趣味なんでしょうか?


さらにひどいのは、表示メッセージ欄の挙動 (右図参照) です。 表示メッセージを変更するために、ボックスをクリックしてアクティブ化すると、なんと内容がクリアされます。 このため、誤字の修正や、以前入力したテキストの一部を使いまわすことはできなくなってしまいました。 前の節で述べたように、マイクロソフトはこの表示メッセージを Twitter の「ツイート」のように使わせたいという思惑があるようです。 そのために、以前のメッセージをクリア (すべてを選択して削除) するユーザの手間を省いた、という意識なのでしょうか? しかし、それならばアクティブ化した時点でテキストを全選択しておけばいいだけの話。 少なくとも、現在の表示メッセージをクリップボードに入れることすらできない現在のインターフェイスでは、その利用が活発になるとは到底思えません。

1件の招待が届いています。

おまけにもうひとつ。 私の環境ではウィンドウの下部に黄色のラベルが現れ、「1件の招待が届いています。」という表示が出るのですが、これをクリックしても何も起きません。 [×] ボタンを押して表示を消しても、次にサインインすればまた出現。 MSNのサイトにサインインして招待を見ても、「招待はありません。(You have no invitations right now.)」と表示されます。 この招待の表示は一体どうすれば消せるのでしょうか? ご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。

見てくれだけはご立派

このようにインターフェイスがガタガタになっている一方で、現在の Windows とそのアプリケーションは見た目を「小奇麗」で「スマート」にすることにかけては余念がありません。 しかし、その「先鋭的」な仕掛けがユーザビリティを損っているケースも多く見受けられます。

ポイントすると現れるナビゲーション

右図は、カテゴリ表示をマウスでポイントしたときの表示の変化です。 マウスカーソルでポイントすると、各項目の左側にクリックによって開閉が可能であることを示す三角形のナビゲーションが浮かび上がってきます。 さて、このナビゲーションをポイントされていないときに非表示にすることにはどんな意味があるでしょう。 図からも明らかなように、この仕掛けによってスペースが節約されているといった利点もありません。

また、このカテゴリの開閉はその操作の内容からは想像できないほどに「長い」時間を要します。 これは、ツリーの開閉がアニメーション化されているためです。 カテゴリ開くときは、まずその下にある項目が下方向へスクロールしていき、、そのカテゴリ内の項目を表示するのに必要なスペースが確保されます。 それが終わると、項目のリストがスライド&フェードイン。 このアニメーションが完了するまでにおよそ2秒。 閉じる場合も同様のアニメーションで2秒が費やされます。

これらの現象は、[コントロールパネル] > [コンピュータの簡単操作センター] > [コンピューターを見やすくします] で、「必要のないアニメーションは無効にします(W)」にチェックを入れると抑制されることから、MSN Messener 2011 固有のものではなく、標準のツリービューコントロールの挙動かもしれません。 マイクロソフト自身もこれらのアニメーションを必要のないものと認識しているのであれば、少なくともデフォルトでオフにしておいて欲しいものです。

凋落の理由

ここまでで大きな不満点をいくつかあげてみたわけですが、それらはいずれも、本当に「些細な」不備です。 ソフトウェアの設計段階に、あるいは実装の現場に、ちょっとした注意力と洞察力と、そこから生じるフィードバックさえあれば、いともたやすく修正・改善が可能だったと思える事柄ばかり。 しかし、現在のマイクロソフトでは、それがなされていないのです。 この使い勝手の悪さ・酷さは、「うっかり」とか「見落とし」というレベルではありません。 これは、彼らのUI設計に関する能力・技術がどうしようもないほどに低下していることを示唆しています。

近年の Windows のシェア低下は、Apple や Google などの競合勢力の拡大もさることながら、マイクロソフト自身の技術力、特にインターフェイス・ユーザビリティまわりの品質の低下が原因だと、私は確信しています。 Windows ユーザとしては、マイクロソフトが XP 以前のインターフェイスに立ち戻り、実直で地に足の着いたUIデザインを志向してくれるように願っているのですが、果たしてどうなることか...。

成田 (「デザイン」とは、飾り立てることに非ず。)
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